• 北見恭子

    「49」
  • 港のカルメン

    港のカルメン

    女にしとくにゃ 勿体ないと人の噂も 雨、あられ私はカルメン 港のカルメン赤いパラソル くるくるまわしカモを探しに きたけれどカモは来ないで 来るのは鴎と あほうどり目立ちたがり屋で 度胸もあって生まれついての 派手好み私はカルメン 出戻り女花の都へ 行ってはみたが好いたお方(ひと)は 皆女房持ちいやな男の 情けの深さに...
  • 夢港

    夢港

    俺の小指を 噛みながら泣いたお前も 北海育ち船をとろうか 女をとるか思案したとて 答えはひとつ明日は別れだ この港町夢を涙で よごしたら俺もお前も しこりが残る泣いていないで ボトルの酒を空にしようぜ 逆さに振って窓の向こうで 霧笛が咽ぶ嘘で女は 抱けるけど嘘で心を あずけちゃゆけぬ三日二晩 おろした錨夜が明けたら ぎ...
  • 斎太朗船

    斎太朗船

    どんとしぶきが 噛みつく舳先(へさき)夢に浮かれりゃ ふり落とされる捨てろ捨てろよ 女の未練情け無用の 千島の海は根性一本 根性一本エトソーリャ 命綱前は海 サヨー 後は山で小松原トエアレワ エト ソーリャ 大漁だエ港 塩釜 鴎の酒場惚れたはれたは 一晩かぎり捨てろ捨てろよ しょっぱい涙網を引く指 かためた拳胸のしこり...
  • 夫婦ちょうちん

    夫婦ちょうちん

    夫婦ちょうちん 浮世の風も今年ばかりは 寒く沁みるわね竹串二本 この髪にこれぞ立派な 夫婦挿(めおとざ)し…あなた台詞が ふるっていますやっぱり頼り うちのひと うちのひと灯り落として 飲み直しましょう荒れたこの手に その目止めないで商い一つ 才もなくそこはいつでも ご愛嬌そっと徳つむ 生き方が好き何より頼り うちのひ...
  • 愛の真実

    愛の真実

    あなたと 毎日 一緒にいたいあなたの お世話を 私がしたいあなたを 私 一人のものにこれが愛の真実 ほかに何があるの私は あなたのために 死ぬことだって出来るのにあなたは あの人と 別れることも出来ない卑怯者 弱虫 意気地なし 嘘つきこれだけの想いを 笑顔にかくして私は あなたに 抱かれてるあなたの 弱さも 私は愛すあ...
  • ないものねだり

    ないものねだり

    パチリパチリと 爪切りながら恋またひとつ あきらめてます仕方がないね 素敵な男性(ひと)はいつでも決まって 誰かのもので……女はバカね 愛とか夢とか心とか見えないものほど 手に入れたがる無理に笑えば 切なくてため息こぼれる 膝の上私そろそろ 落ち着きたいと弱気になるの 雨降る夜はささいな事で 別れた人がいい人だったと ...
  • 恋双六(こいすごろく)

    恋双六(こいすごろく)

    惚れて別れて 振り出しに戻る男女の 恋の仲双六遊びじゃ ないけれど賽コロ振るよにゃ いかないよ山あり谷あり 川もある上りが見えない 恋の双六 迷い道玉の輿など 狙わずに男ごころを 射止めなよ人生双六 泣き笑いお酒がとり持つ 縁もある男を忘れる 酒もある上りはまだまだ 恋のかけひき 浮世道振った賽コロ ゾロ目なら恋も女の...
  • さみしがり

    さみしがり

    男ぎらいを 通せるもんか私の女が 愚図り出す叱ってよ 行儀が悪いと 叱ってよ夜に人恋う 遣り場のなさにせめてお酒の 助けが欲しい浮気させずに 遊ばせるほど器量がなかった 寂しがり戻ってよ 独りにしないで 戻ってよ待てばいつかは 帰ってくれるいいえ今度は 勝手が違う夢で抱かれて 襟もと乱す素肌の白さが 闇に浮く逢いたいよ...
  • 浪花の月

    浪花の月

    今日の飯(めし)より 明日(あした)の夢やそれがあんたの 口癖やものその夢一緒に また追いかけて肩を並べた 戎橋(えびすばし)あんたそびえる 通天閣や私 寄り添う 月になる何は無くとも ふたりをつなぐ銭じゃ買えない 心の絆想い出映した 道頓堀の川に捨てたい 苦労でも背負(しょ)って行きましょ あんたとならば空に ひとひ...
  • おんなの春

    おんなの春

    一度吹雪けば 三日は止まぬ胸の隙間に 雪が舞うあの日約束 したものをなぜにあなたは 帰らない春はいつ来る おんなの春はせめて便りを 届けて欲しいあああ…他の誰にも 許しはしない積る雪より白い肌夜にこぼれる 黒髪があなたさがして すすり泣く春はいつ来る 花咲く春はあてもないまま 待つのはつらいあああ…あなた恋しさ 愛しさ...
  • 大阪のれん

    大阪のれん

    ごめんなさいね 誰にでも愛想がなくって うちの人川に抱かれる 道頓堀で今は馴染みが 薄くても腕は確かな この人とここで ここで根下ろす 大阪のれん灯りをともす 店先で通りすがりの 幼子を馴れぬ手つきで あんたがあやすそんな姿が 可笑しくて両手 思わず 口もとにそっと そっとゆれます 大阪のれんご褒美なのね がんばりのこ...
  • おんな山唄

    おんな山唄

    楔(くさび)ぶちこみ 石を切る音の谺(こだま)で 山が泣く好きな男を 追いかけていつか二度目の 春になる ヨー ヨー情けがたよりの 山暮し ヤレ キコン キコン親のこころが 今になりしみる綴(つづれ)の 単衣帯(ひとえおび)逢いに行(ゆ)きたや 鳥になりごぶさたばかりの おかあちゃん ヨー ヨー廻しておいでか 糸車 ヤ...
  • あがらっしゃい

    あがらっしゃい

    よしず囲いの 屋台を叩く霙まじりの 雨の粒あがらっしゃい あがらっしゃい宵の口から お客といえばあんた一人の すきま風嘘をからめた 身の上ばなしこぼしたくなる こんな夜は取柄ないのが わたしの取柄根なし花なし お人好しあがらっしゃい あがらっしゃい襷はずして 口紅でもつけりゃ女らしさが でるかしら野暮で無口な 似たもの...
  • 六十里越え

    六十里越え

    霧が深くて 月山(おやま)が見えぬ山がみえなきゃ 明日が見えぬ胸にかかえた おんなの涙アーー アーー袖にこぼれて 草の露想い 出羽三山(みやま)を 六十里越えてあなたの 後を追う夜なべ藁(わら)打ち 紅緒の草履指にくいこむ 見返り峠せめてひと言 本音を聞けばアーー アーーよわい未練も たち切れる想い 出羽三山(みやま)...
  • 女のとまり木

    女のとまり木

    最後の “もしや…”に かけたのにやっぱりあなたは 来なかったおさけ頂だい 熱燗で洗いたいのよ このみれんあゝ独りとまり木 夜涕(な)き鳥他人じゃなくなる 前ならばこんなに悔やみは しないはず嗤(わら)わないでよ ねえおさけ女ごころの 嘆(なげ)き節(ぶし)あゝ独りとまり木 はぐれ鳥憎んでしまえば 楽なのにやさしさばか...
  • 港町カフェ

    港町カフェ

    今日もまた来て しまったの潮の匂いが からみつく港町カフェ あたしひとりのあゝ 窓際の席待つわと言った あの日からあんたのせいで 年をとれない心が暦を 忘れてる港の花は 摘まれるだけど鴎よ… 泣かせないで今日もまた来て しまったのふたり毎日 おちあった港町カフェ あたしひとりのあゝ 窓際の席都会に心 奪われる鳥でも飛ん...
  • 酔いどれ切符

    酔いどれ切符

    今日も心に ふるさとのあかりが灯れば 飲むお酒つらくたってさ つらくたってさいまさら帰れる 帰れるわけがないだけどやっぱり はずせぬままの指輪の傷を なみだが洗うぜんぶあたしが 悪いのと最終列車に 飛び乗った女だってさ 女だってさ心に嘘など 嘘などつけないよだけど上手に 生きられなくてさみしい夜は お酒にすがる夢の入り...
  • 淋しいね

    淋しいね

    別れたあいつの 名前をつけた猫を呼んでみても そばにも来ないわあいつの嘘なら 気づかぬふりで暮らしてたら二人 続いたかしら…男を上手に 遊ばせるには私の手のひら 狭すぎたのよ淋しいね 淋しいね女ひとりで 飲むなんて震えるこの心 今すぐ抱きしめてああ 誰かそばにいてよ酔えば酔うほど 淋しいねどこかであいつに 出逢った時は...
  • 春の夢

    春の夢

    春を呼ぶのか ぼたん雪なさけの袂を また濡らす また濡らすあんたにあずけたおんなの夢を胸にうつして 寄り添ってはじらいながらかさねた指に 春の夢青いほおずき 噛むようなかなしい過去は 捨てました 捨てましたあんたにひといろ 命を染めてついて行きます どこまでもうれしいくせに こぼれる涙 春の夢どんな苦労を してもいいこ...
  • 出世船唄

    出世船唄

    出船の舳で 一升壜[いっしょうびん]がはじけてまっ赤な 旭日が昇るお守り袋に 子供らの写真を忍ばせ 赤道こえるいってくるぜ いってくるぜはるか地球の 裏側へ毛蟹で稼いで ニシンで当てた思い出噺に 生きてる親父明日は倅に まかせてよ待っていてくれ 大漁便りそれでいいさ それでいいさ好きな酒でも やりながら時計を合わせて ...