• 岡千秋

    「1197」
  • 母のふるさと

    母のふるさと

    湖深く眠る深山(みやま)の その郷(さと)は母のふるさと 幻の幾年月(いくとしつき)の 道のりを越えてはじめて わたしからここへ降り立つ 夏の夕暮れ「よく似てますね」幼馴染(おさななじ)みと 云う人の昔話に 涙ぐむ野の花摘んで 湖にそっと流して 眼を閉じる母のその歳 並ぶこの秋この高台に 満天の星が降ります 髪にまでこ...
  • 堰堤の匠

    堰堤の匠

    高くそびえる 匠の仕事(わざ)に今も惹かれて 魅せられて堰堤(やま)に入れば 眼が光るそんな男の ひと汗が水を護って 樹を護る辛夷(こぶし) 石楠花(しゃくなげ) 水芭蕉(ばしょう)の花も女房前では ただの花さぞや日暮れは 寂しかろ添えてあげたや 合いの手をダムの男の 酒盛りに今日もよろしく 相棒さんよ手垢まみれの ヘ...
  • 裏町未練酒

    裏町未練酒

    人生つまずいて 世間に泣かされた楽な暮らしの 一つもやれなかった一度は捨てた 夢なのに今さら何で 想い出す灯りが揺れる 酒場の片隅でひとり 飲んでる 裏町未練酒どんなに辛くとも 涙を堪えて来たそんな仕草を 気付いて遣れず終まい今ごろ誰と 暮らしてるしあわせならば それでいい背中で泣いて こころで詫びながらおとこ 手酌の...
  • 南部の風鈴

    南部の風鈴

    狭い一人寝(ひとりね) 寂しい夜は遠い過去(むかし)を 呼び起こす俺の生き方は ふらふらと浮草暮らしおまえが悪い 訳じゃないこんなに早く 別れるなんて今ごろ怨んで いるだろうおまえが愛した 南部の風鈴悲しい音色が 鳴り響くポツリ ポツリと 小雨に濡れる二人の戻る 道はもうないから夏が過ぎ去り 季節はすでに秋の気配を 告...
  • ひとり安曇野

    ひとり安曇野

    指を折りつつ 数えれば早いものです 七度目(ななどめ)のひとり旅です 安曇野は葉月(はづき)終わりの 蓼川(たてがわ)にたったひと夏 はかない はかない命蛍火が 蛍火が痩せた灯りを 点(とも)してるあぁ 点(とも)してるあんたわたしも 淋しいの抱いて下さい 道祖神(どうそじん)ひとり旅です 安曇野は想い焦(こが)れる ...
  • 漣情話~この宿で~

    漣情話~この宿で~

    淡(あわ)い着物を 選んできたの華(はな)はないけど ひそやかに今か今かと 忍び忍んでこの日をじっと 待ちわびたあゝ 愛して命も あずけたのわたし わたし わたし この宿でお湯に黒髪 揺られるようにふたり一夜(ひとよ)の 舟にのる焦がれ焦がれて 乱れ乱れてこの身をまかせ 横たわるあゝ 女によろこび くださいねあなた あ...
  • 男のコップ酒

    男のコップ酒

    逢えてよかった お前に逢えて同じ夢みた この酒場烏賊(いか)の丸干し 噛みしめながら腹に呑みこめ 男の愚痴はなにはともあれ 先(ま)ずは一杯…コップ酒強いふりして 構えていても芯は誰でも 淋しがりまるい木の椅子 煤(すす)けた柱昔のままだよ この店だけは幼なじみの 俺とお前の…コップ酒目と目みつめて 頷(うなづ)きあっ...
  • 故郷ごころ

    故郷ごころ

    祭り囃子の 笛の音なぜか聴きたい 子守唄都会という名の ビルの谷生命(いのち)を咲かす 花もある忘れはしない 故郷ごころ春は桜の 並木道秋の夕焼け 紅(あか)とんぼ日暮れの街角 風の声涙を拭いて 頑張れと忘れはしない故郷ごころ白い煙の 囲炉裏茶屋(いろりぢゃや)田舎作りは 黒光り今でも恋しい 女(ひと)がいる夢見た暮ら...
  • おんな舟

    おんな舟

    人の優しさ 沁み通る渡る世間の おんな舟誰もが一人じゃ つらいのよ心寄せ合い 生きて行く夢を失くさず どこまでも流れ流れて 情け川好きなだけでは 結ばれぬ泣いて別れる 恋の舟本気で愛した 人だから悔いはしません 怨まない水に揺れます 面影が流れ流れて なみだ川明日(あす)のことさえ わからない命あずける おんな舟笑顔で...
  • 純情一本気

    純情一本気

    よせと よせと言われりゃ なおさらに恋の炎は 燃えあがるあんた好みの 紅化粧わかって欲しいの この気持ち惚れて ぞっこん純情一本気出会い 出会い頭の ひと目惚れ縁は異なもの 味なもの忘れられない あの笑顔わかって欲しいの この気持ち胸が キュキュンと純情一本気恋の 恋のライバル 多いほど後に引かない 戻れない寝ても覚め...
  • 斜め松

    斜め松

    身体(からだ)くの字の 斜(なな)め松怒涛(どとう)耐え抜く 日本海渡る世間の 荒波受けてそれでも心は 真っ直ぐにどんと構えて 生きて行く幹に傷跡 斜め松せめて松葉の 鮮(あざ)やかさ同じ夢見て いつでも俺を黙って支えて くれる女(やつ)命ひとつに 生きて行く岩に根を張る 斜め松夕陽背に受け 堂々と今日が駄目でも 明日...
  • 湯島天神おんな坂

    湯島天神おんな坂

    風もないのに 散り急ぐ白梅(はな)の生命(いのち)の 哀(あわ)れさよ情けに生きよか 諦(あきら)めようか恋の思案に 日も昏(く)れる湯島 天神 おんな坂義理の袂(たもと)を 振りきってついて来いよと 云われたら…男は誰でも 将来(あした)が大事陰で女が 泣きをみるお蔦(つた) 主税(ちから)の 物語宵の本郷 薄化粧ゆ...
  • 三日月海峡

    三日月海峡

    女の胸には 海がある夢さえ溺れる 涙の海に憎さ恋しさ 打ち寄せるあなた…あなた私を 捨てるなら夜空に浮かぶ 三日月を刺してください この胸にふたりの愛には 闇があるあしたの見えない 果てない闇に熱い吐息が 渦を巻く何も…何もいらない 抱き寄せて夜空に浮かぶ 三日月にお酒そそいで 契りたい男の胸には 空がある自由と言う名...
  • 乱れ酒

    乱れ酒

    心に嘘を つきながら生きてゆくのは 何のためあなたに甘えて すがれない自分の強さが いやなのよ酔ってからんで 泣きくずれ女ひとりの 乱れ酒一夜(ひとよ)の恋を してみてもよけい哀しく なるばかり優しい男は いるけれど淋しいあなたが 欲しいのよ酔って面影 追いかけて女ひとりの 乱れ酒真っ暗闇の 路地裏にひとりぼっちの 月...
  • 居酒屋「雨やどり」

    居酒屋「雨やどり」

    古い酒屋の 角を曲がった袋小路の 突き当たり窓に飾った てるてる坊主淋しく揺れてる お店だよおまえに 似てるよね アタシ…中野 駅裏 「雨やどり」青いランプが 灯る店肩にそぼ降る 雨の粒より店はあるのに 見えるのに歩き疲れた 体と心淋しさ預ける 場所がない話も 下手だから アタシ…中野 駅裏 「雨やどり」一人たたずむ ...
  • 十勝望郷歌

    十勝望郷歌

    ぽろり ぽろり 泣きたい夜は遠いふるさと ひとり想う好きで別れた あの人想うヒュル ヒュル ドンドンとヒュル ヒュル 川花火今も聞こえる 呼ぶ声が幸せだろか あの人は十勝の あの町で秋が 来れば 聞こえてくるよ母とはしゃいだ 祭囃子無理にねだった 夜店の指輪ヒュル ヒュル トコトンとヒュル ヒュル 笛太鼓出せずじまいの...
  • 北へ…流れ川

    北へ…流れ川

    東京そだちの あなたには雪の新潟 つらいはず小指の先まで 溶けたって妻にはなれない わたしです北へ流れる 川ならば明日は見えない 日本海あなたが耳もと ささやいた熱い吐息(といき)が 身を責める思い出ばかりの 罪つくり泣き虫よわ虫 おんなです上(のぼ)り夜汽車が また啼(な)けば夢も凍てつく 日本海ひと冬ふた冬 み冬す...
  • 月待ちの恋

    月待ちの恋

    女の胸に 灯りをともし宵の蛍は あゝ… また消える燃えるかがり火 薪能あなたは心で 私を抱いた逢えばせつない 逢えばせつない月待ちの恋この世でたとえ 謗(そし)られようと解かぬ帯なら あゝ… 結ばない花を濡らして 情け雨あなたの惑わす 言葉が憎い雲間隠れに 雲間隠れに月待ちの恋契れば命 終わると知らず舞うか蜉蝣(かげろ...
  • 絆道

    絆道

    義理と人情(にんじょ)で 結ばれた絆と言う名の 心糸打たれても 食い縛り大空見上げて これたのは人の支えが あればこそ信じる友が あればこそどうせ向くなら 上を向け恨みや涙も こぼれまいあの時に この俺が選んだ生き方 合ってたか聞いてみたいよ なあ親父答えてくれよ なあ親父春を待つから 生きられる吹雪もまんざら 悪くな...
  • なごみ小路で…

    なごみ小路で…

    泣いちゃ男が すたる夜はそうさ深酒 したくなる右から一(ひい)、二(ふう)…三軒目涙代わりの 浮き世の水で酔いたいネ 酔いたいネ やっぱり 酔いたいネ凍(しば)れた心と 胃ぶくろにゃ馴染みの灯りが ああ あったかい暖簾ヒラリと くぐったら毎度お馴染み 顔なじみ徳利五(いつ)、六(むう)…七本目焼いたホッケに 演歌がひと...