• 岡千秋

    「1197」
  • 屋台ばなし

    屋台ばなし

    夫婦屋台(めおとやたい)に 身ぐるみのせて捨てた昔に みれんはないがもう一度 咲かそうよなあ おまえ ねえ あんた前と後ろで 声かけあって花を夢みる 裏町ぐらし荒れた両手を 見せ合いながら残りご飯で すませる朝もグチなんて 言わないさなあ おまえ ねえ あんた夫婦屋台の 赤ちょうちんのしわの数ほど 苦労がしたい屋台なか...
  • 清滝川

    清滝川

    空にまたたく 灯火(ともしび)が闇に尾を引く 夢ほたる京都 洛西(らくせい)清滝川は 別れ川明日(あす)の二人を 見るようで団扇(うちわ)持つ手が 重くなる夜が明ければ 虫たちの花の宿やら ほたる草京都めぐりの清滝川は 旅納め叶うものなら 二人して隠れ住みたい 世間から籠に入れては みたものの闇に逃した 夢ほたる京都 ...
  • 人生一本〆め

    人生一本〆め

    そこの にいさん おねえさん昔は 美人の おばあちゃん今日は 雨でも 明日の空は夜が 明けなきゃ わからない取りこし 苦労は 体に悪い背骨を のばして しゃんとして一本〆めで 締めましょう サノエ・エンヤラヤそこの にいさん おねえさん赤ちゃん 抱いてる おかあさん右か 左か 二つに 一つ恋に 迷えば 紅とんぼくよくよ...
  • 姫島月夜

    姫島月夜

    男ごころと玄海しぶき濡らす ばかりで 掴めば逃げるこの人 ひとりと 尽くして燃えた夢を 残して あんたの船は船は 今ごろ アン・アン……月の出潮の 姫島辺り小倉育ちの女のいのち死ぬも 生きるも 前しか見えぬ嬉しか思い出 切なか思い酔えぬ 地酒に まぎらす酒涙 頬づえ アン・アン……すがる波間の 姫島灯り博多 献上 筑前...
  • をんな川

    をんな川

    涕(な)きすがる 母を振りきり郷里(ふるさと)を のがれ幾年ただ一途 恋に走った十八歳(じゅうはち)の 春のあとさきをんな川 水面よぎるよをんな川 流れ漂い散り果てた 夢の数々にくしみも 未練ごころも行きすぎる 時の間(ま)に間(ま)に風の中 みんな一色(ひといろ)にごり絵の 巷(まち)の明け暮れむなしさに 目蓋(まぶ...
  • 佐渡海峡

    佐渡海峡

    吹雪簾(すだれ)の そのむこうあなた あなたの 船が行く二冬(ふたふゆ)待って 待っててくれと見せた泪を 信じたい遣(や)らずの雪よ 雪よ哭(な)け哭け…佐渡海峡赤い角巻 かき寄せりゃ耐えた思いが 眸(め)をぬらすわかれの寒さ 埋(うず)めるように素肌かさねた なごり宿あなたを信じ 待って待ちます…小木港霧笛一声(ひと...
  • おばこ吹雪

    おばこ吹雪

    明日に賭けてる 男の夢の邪魔になっては いけないの分かりながらも 心の内は貴方を止めたい 冬の駅おばこ吹雪よ ひと荒れ荒れて上り列車を 出さないでねぶり流しの 提灯揺れて秋田竿燈(かんとう) 夏まつり竿を片手に 大見得切った半纏(はんてん)姿に ひと目惚れおばこ十八 逢瀬のたびに胸を焦がした 紺がすりきっと戻って 私の...
  • 浪花のがしんたれ

    浪花のがしんたれ

    なんやなんやと 出て行くからにゃ派手な喧嘩は 止(と)めるが男下がれ下がれの 野次跳(やじは)ねのけて止めるつもりが よけ燃え上がり祭りばんてん ア、アアン…泥しぶき破れかぶれも 花と咲け俺(わい)は浪花の がしんたれ呑めや呑めやと 焼酎廻しゃいつの間にやら あの娘が消えた洒で酔うより 手の方が早い何処の野郎(どいつ)...
  • あの日の嘘のつぐないに

    あの日の嘘のつぐないに

    北窓ひとつの 小さな部屋で淋しく暮らして いたんだねほんのり うす口紅(べに) 爪噛むくせも変わっちゃいないよ あの頃とああ ああ おまえって泣かす女だね許してくれとは 言えないが陽だまりみたいな 幸せをあの日の嘘の つぐないに男の気ままで 放浪(さすらい)ぐらし小樽に三年 萩二年ゆきずりの花を 散らせるたびに心のどこ...
  • 沓掛時次郎

    沓掛時次郎

    合わぬ辻褄 無理矢理合わせ着けなきゃならねぇ おとしまえ野暮な渡世の 罪ほろぼしよ仇を情けの 子連れ旅…いいってことよまかせておきな侠(おとこ) 沓掛時次郎風に落ち葉の 追分がらすはじめて しみたぜ 人の味好きと一言 本音を言えば胸のつかえも 取れるのに…いいってことよまかせておきな侠 沓掛時次郎赤い紙縒(こより)で ...
  • 浪花恋しぐれ

    浪花恋しぐれ

    芸のためなら 女房も泣かすそれがどうした 文句があるか雨の横丁 法善寺浪花しぐれか 寄席囃子今日も呼んでる 今日も呼んでるど阿呆春団治「そりゃわいはアホや 酒もあおるし 女も泣かすせやかて それもこれも みんな芸のためや今にみてみい! わいは日本一になったるんや日本一やで わかってるやろ お浜なんやそのしんき臭い顔は酒...
  • 知床番屋

    知床番屋

    ようやく海明け 流氷が北へ戻った オホーツク男と女の 知床番屋これからしばらく 恋休み漁師は船出が 早いから甘えちゃいけない 夜明けまで一目で私が 惚れたのか先に貴方(あんた)が 口説(くど)いたか男と女の 知床番屋いつしか二人は 恋祭り全てを許した あの夜(よ)からぬくもり恋しい 腕まくら大漁祈って 岸壁で船を見送る...
  • 夜叉

    夜叉

    春にはぐれた 私の恋は貴方恋しと 今日も泣く夢を追いかけ 北の国 北の国戻れない道 恋の夜叉私、一人じゃ 生きられないの波のまにまに 暮らした月日同じ時間(とき)だけ 遠ざかる人の噂に 傷ついて 傷ついて嘘だと言って かぶり振る胸の面影 憎めやしない夜にはらはら 散る花びらは未練残した 桜花いっそこの身も 人知れず 人...
  • 夢かえる

    夢かえる

    雨があがった 陽がさした蛙がケロケロ 鳴き出したおもいで小道の 出逢い橋あなたに会えた ただそれだけで指の先まで あつくなるあの日がかえる いまでもかえる あぁ 恋しいなぁ傘をたたんで川の音蛙ときいてりゃ気も和むあれから三年 なみだ橋噂もいつか ちぎれて消えて花のかおりの風ばかりあの日がかえる いつかはかえる あぁ 泣...
  • あなたひとりに片想い

    あなたひとりに片想い

    私が本気で 好きになった人からだもこころも 私のすべてなの星の数ほどいるなかで 男がいるなかであなただけだと 惚れたの 惚れた人あなたひとりに 片想い夢でもいいから 抱かれてみたいふたりは似合いの 似合いのふたりなのおんなごころをうけとめて 両手でうけとめて世間(ひと)の噂を のりこえ のりこえてあなたひとりに 片想い...
  • 死ぬまでおんな

    死ぬまでおんな

    夕暮れどきに灯りが映る 水面(みなも)を見つめて春まだ遠い町にひとり 私は住んでいます思い出橋で出逢ったころ あなたはいまでも覚えていますか季節は流れ 時は過ぎ 帰らぬあの日私はおんな 死ぬまでおんな 死ぬまでおんなです思い出ひとつ大切にして 私は生きますあなたのことだけ忘れられず ひとりで待っています思い出橋の約束を...
  • 哀の海峡

    哀の海峡

    なぜかしら二人は 離れて生きてこころ呼び合う 悲しいさだめ暗い波間に 浮かんで消える面影ひとつ 夢ひとつ…涙映した ホテルの窓の外は果てない 哀の海峡堪らなく逢いたい 逢うのが怖いもとのきれいな 私じゃないわせめて教えて 幸せですか漁り火遠く またひとつ…忘れられない 女の胸を波が濡らした 哀の海峡この世では一緒に な...
  • じょんがら

    じょんがら

    岩木おろしに 舞う雪が肩に冷たく 降りかかる数え七つで 覚えた三味線(しゃみ)を胸に抱きしめ ひとり行くじょんがら じょんがら そこの人聞いてください いのち唄撥(あたた)を素肌で 温(あたた)めて息を両手に 吹きかける弱音吐いたら 涙が凍る夢が死んだら 躰(み)も凍るじょんがら じょんがら そこの人聞いてください こ...
  • おけさ海峡

    おけさ海峡

    おけさ踊りに 鬼太鼓(おんでこ)がつらい心に しみとおるあなた あなた恋しや 遠い空せめて夢でも 逢いたいよ風が震える 佐渡海峡黄花かんぞう 咲く頃にきっと帰ると 言った人いつに いつになったら その胸で泣いて甘える 夜が来る海に名を呼ぶ 佐渡海峡紺の絣(かすり)に 菅笠(すげがさ)で送り迎えの たらい舟女 女心も 届...
  • 神楽坂

    神楽坂

    泣いてるような 三味の音風に聞き日暮れの駅の改札出たら想い出すのは かあさんの言葉 あの言葉私は運が なかったけれどおまえがそのぶん幸せに なればいい…‥あの煙草屋の横の 空地に咲いた今年も咲いた かあさんの酔芙蓉ただそれを見に‥ただひとり来た 神楽坂その頃はまだ ホタルが飛んできた切子の赤い風鈴鳴ればためいきついた ...