• 西條八十

    「226」
  • 伊豆の佐太郎

    伊豆の佐太郎

    故郷見たさに 戻ってくれば春の伊豆路は 月おぼろ墨絵ぼかしの 天城を越えてどこへ帰るか どこへ帰るか夫婦雁瞼とじれば 堅気になれと泣いてすがった 洗髪幼馴染も あの黒潮も一度ながれりゃ 一度ながれりゃ帰りゃせぬ逢って行こうか 逢わずに行こうか伊豆の佐太郎 忍び笠どうせ明日は またながれ旅はいた草鞋に はいた草鞋に散る椿...
  • 菊五郎格子

    菊五郎格子

    十八娘の 緋鹿子の手柄がくずれて 富士額弁天小僧が きる啖呵知らざあ言って 聞かせやしょうなつかしいぞえ 菊五郎格子歌舞伎の桟敷が 縁となりあなたとわたしが 合蛇の目これきり別れりゃ 女でも闇夜があるから 覚えてろなつかしいぞえ 菊五郎格子銀座の柳を 吹く風に幟がゆれます 木挽町通ればかおるよ 白菊が面影うつした 鏡獅...
  • 越後獅子の唄

    越後獅子の唄

    笛にうかれて 逆立ちすれば山が見えます ふるさとのわたしゃ孤児 街道ぐらしながれながれの 越後獅子今日も今日とて 親方さんに芸がまずいと 叱られて撥でぶたれて 空見あげれば泣いているよな 昼の月うつや太鼓の 音さえ悲し雁が啼く啼く 城下町暮れて恋しい 宿屋の灯遠く眺めて ひと踊りところ変れど 変らぬものは人の情の 袖時...
  • 旅情の歌

    旅情の歌

    大河のほとり駒とめて誰に贈らんすべもなく涙に摘みし螢草夕月細く旅遠し広野の涯に在りという幸福(さち)を尋ねて若き日を時雨にうたれ風に泣き辿りし旅路幾歳ぞ鳥啼く谷に日を暮らし星の渚に眠れども幸福(さち)は我身にめぐり来ずこよいも更けて鐘が鳴る可愛いの駒と労(いたわ)れば駒も悲しく嘶(いなな)きて涙に摘みし螢草手綱にあわれ...
  • 愛のささやき

    愛のささやき

    可愛い蕾よ きれいな夢よ恋のこころに よく似た花よ咲けよ咲け咲け 朝露夜露咲いたらあげましょ あの人にほそい三日月 やさしい月よ夜毎涙の 枕を照らすせめて伝えよ わたしのこころ離れて逢えない あの人に赤い小鳥は 可愛い鳥よ窓にひねもす 嘆きをうたう啼けよ啼け啼け 切ないこころ朝夕恋しい あの人に...
  • 愛して頂戴

    愛して頂戴

    ひと目見たとき 好きになったのよ何が何だか わからないのよ日暮れになると 涙が出るのよ知らず知らずに 泣けてくるのよねえねえ 愛して頂戴ねねえねえ 愛して頂戴ね逢った時には 何にも云えずようしろ姿に たゝ泣くのよ女心は深山(みやま)の さくらよ人に知られず 赤く咲くのよねえねえ 愛して頂戴ねねえねえ 愛して頂戴ねひと目...
  • 青葉の笛

    青葉の笛

    花から花を 飛ぶ蝶もたそがれ宿る 花の宿甘い夜風に 星の歌けれど けれど燃える心の 宿はいずこ乙女の慕う 君はいずこ夢みる君は 月今宵いずこの空に 在(ましま)すやかりが鳴く夜を 露の夜を恋し 遠し燃えるこころの 宿はいずこ乙女の慕う 君はいずこ独りで空を ゆく月も時雨れて宿る 雲の陰銀のひかりの 銀の夢けれど けれど...
  • 江戸の闇太郎

    江戸の闇太郎

    月に一声 ちょいとほととぎす声はすれども 姿は見えぬおれも忍びの 夜働きどっかり抱えた 千両箱こいつァ宵から 縁起がいいわいヘンおいらは黒頭巾花のお江戸の 闇太郎風に稲穂は あたまをさげる人は小判に あたまをさげるえばる大名を おどかしてさらう小判は 涙金おつな商売 やめられましょうかヘンおいらは黒頭巾花のお江戸の 闇...
  • 角兵衛獅子の唄

    角兵衛獅子の唄

    生まれて父の 顔知らず恋しい母の 名も知らぬわたしゃ旅路の 角兵衛獅子打つや太鼓の ひとおどり情けを知らぬ 親方の昼寝のひまに 空見れば雁も親子で 帰るのにわたしゃ越後へ いつ帰る旅路にまたも 茶の花が匂えば故郷(くに)を 想いだす赤い万燈 村まつり幼馴染が 忘らりょか...
  • ギター月夜

    ギター月夜

    山に咲く花 色悲し海で鳴く鳥 歌悲し町にいてさえ 寂しいものをなんではるばる 旅を行く忘れられない 胸の傷忘れようとて 旅行けば雨の港の 日暮れの駅も泣いて別れる 人ばかり空の鳥には 巣があれど若き愁いの 宿もなくひとり爪弾く ギターの歌に遠いこだまが 涙ぐむ...
  • あの夢この歌

    あの夢この歌

    幼い日かなしい日 聞いた歌優しメロディ君うたう今うたう 花の唇燃えてときは春 あかしやのみどり白雲楽しげに渡鳥 翼はかゞやく涙ぐみ 別れたるうるわしの君の姿うかび来て流れ来てわれを泣かすよ 呼ぶよ若き日の恋の花 すみれ雛げし匂る夜の歌声に 月さえかゞやくあの夢もこの夢も ながれ去り残るメロディあの人がこの人が あわれ歌...
  • 旅の舞姫

    旅の舞姫

    君はかわゆき 舞姫の私ははかない 胡弓ひき思いは胸に 燃えたとて誰にあかそう誰にあかそう 旅の風恋をする身と 知ったのはあなたの姿の 消えた夜悲しく君の 名を呼べば霧が答えた霧が答えた 白い霧親のない身の 寂しさをふたりで嘆いて 夜が更けて眺めた銀の 天の川旅のあの夜が旅のあの夜が 忘らりょか...
  • 愛の灯かげ

    愛の灯かげ

    住むに家なき 小鳩のわたし雨に泣いてた 焼野原やさしく呼んだ あなたの声にほのぼの咲いた 愛の花小鳩可愛いや 小ちゃなねぐら夜は悲しい 灯がともるあの窓あたり われ待つ君の面影いとし 並木みちきのうあきらめ 今日また燃える恋はせつない 紅あざみ主ある君は 垣根の花よ摘めばくるしい とげばかり山のかなたに 待つ幸福をきょ...
  • こころ月の如く

    こころ月の如く

    青き真珠か 花かながれくる光よいまも昔の ままに澄める空の月よ ああやさし君の 愛の言葉音無くささやきわれを濡らす 月の光消ゆる涙か 露かくもりなき光よ呼べど返らぬ 若き夢に匂う月よ ああ悩み多き 春は去りて残るは想い出たのし清し 月の光...
  • 夢よもういちど

    夢よもういちど

    派手に咲いても ダリヤの花の露の涙を 誰が知ろ何故に消えるぞ 女の夢は夢よ 返れよ もういちど道は二筋 願いはひとつ恋は苦しい 花うばら女ごころを 哀れむように荒れた都で 虫が鳴く見えぬ明日に 希望をかけて遠く尋ねる 青い鳥星が流れて 夜明けも近い夢よ 返れよ もういちど...
  • サーカスの唄

    サーカスの唄

    旅のつばくろ 淋しかないかおれもさみしい サーカス暮らしとんぼがえりで 今年もくれて知らぬ他国の 花を見たあの娘住む町 恋しい町を遠くはなれて テントで暮らしゃ月も冴えます 心も冴える馬の寝息で ねむられぬ朝は朝霧 夕は夜霧泣いちゃいけない クラリオネットながれながれる 浮藻(うきも)の花は明日も咲きましょ あの町で...
  • 花言葉の唄

    花言葉の唄

    可愛い蕾よ きれいな夢よ乙女心に よく似た花よ咲けよ咲け咲け 朝露夜露咲いたら上げましょ あの人に風に笑って 小雨に泣いて何を夢みる 朝花夜花色は七色 想いは十(と)色咲いたら上げましょ あの人に白い花なら 別れの涙紅い花なら 嬉しい心青い花なら 悲しい心咲いたら上げましょ あの人に...
  • シナの夜

    シナの夜 シナの夜よ港の灯り 紫の夜にのぼるジャンクの 夢の船ンー 忘られぬ 胡弓の音シナの夜 夢の夜シナの夜 シナの夜よ柳の窓に ランタンゆれて赤い鳥かご シナ娘ンー やるせない 愛の歌シナの夜 夢の夜シナの夜 シナの夜よ君待つ宵は 欄干の雨に花も散る散る 紅も散るンー 別れても 忘らりょかシナの夜 夢の夜...
  • 旅の夜風

    旅の夜風

    花も嵐も 踏み越えて行くが男の 生きる道泣いてくれるな ほろほろ鳥よ月の比叡を 独り行く優しかの君 ただ独り発たせまつりし 旅の空可愛子供は 女の生命なぜに淋しい 子守唄加茂の河原に 秋長けて肌に夜風が 沁みわたる男柳が なに泣くものか風に揺れるは 影ばかり愛の山河 雲幾重心ごころを 隔てても待てば来る来る 愛染かつら...
  • なつかしの歌声

    なつかしの歌声

    銀座の街 今日も暮れて赤き灯燃ゆ恋し東京 恋し東京あの窓この小径(こみち) やさしの柳あこがれは悲しき 乙女の涙風よ運べよ いとしの君へ歎(なげ)きの道 ひとり行けばみどりの樹に鳥はうたう 鳥はうたうやさしく寄り添いし 姿よいずこおもいでの窓辺に 忘れなぐさが風に泣いてる きのうも今日も夕焼空 君と眺めうたいし歌楽しメ...