• 木下龍太郎

    「337」
  • みだれ雪

    みだれ雪

    明日を想えば 心まで湯冷めしそうな いで湯宿これが最後のお酒なら あなた…今夜は酔って いいですか雪見障子の 外は遣らずの みだれ雪逢えてよかった 泣くための恋でいのちは 終わっても愛の想い出道連れに あなた…女は生きて 行けますわ髪を解いて 添い寝する身も みだれ雪朝は他人の 憎い手に帯を解かせる 宿浴衣付けちゃいけ...
  • ふたり道

    ふたり道

    “おひとついかが”“お前も呑めよ”笑顔と笑顔の 差し向い明日が見えない つらい夜も泣いたりしないから夢を信じて 捨てないでいい日も来るでしょうおつかれさまです あなた“甘えて欲しいの”“照れるじゃないか”重さが嬉しい 膝まくら一人で苦労を 背負わずに二人で半分こ他人に言えない 話でも私に聞かせておつかれさまです あなた...
  • 雨の空港

    雨の空港

    ドアに挟んだ 別れのメモを読んでいるはず いま頃はごめんなさいね あなたこんな別れ方しか 出来なくてひとり身を引く 女の旅は空も泣いてる 雨の空港いまは小いさな 年の差だけどいつか重荷に なるはずよ初めて知ったの あなた長さだけじゃないのね しあわせは愛の残りと 想い出詰めたこころ重たい 雨の空港遠く消えてく 灯火の中...
  • 絆坂

    絆坂

    あなたと流した 涙の数で幸せ決まると 人は言う離さないでね この腕を押して行きます その背中を一人じゃ無理な 坂道だから二人で越える 絆坂いいことばかりの 人生ならばこの世に苦労の 文字はない叱りつけてね 迷ったら後を追います 遅れても袖摺り合うも 何かの縁ね結んだ愛の 絆坂ないないづくしで 始めた生活いつかは笑顔の ...
  • 北どまり

    北どまり

    向こうは凍てつく オホーツク赤いランプが 海沿いに揺れて遠去かる 揺れて遠去かるさいはて列車あなたの迎えを 待つくせにわざと強がり 意地を張る女ひとりの 北どまり男にゃよくある あやまちを許せなかった あの時は一人泣きに来た 一人泣きに来た別れも告げず馴れては来たけど 夜明けまで沖で流氷 哭く音に眠れないのよ 冬岬ほど...
  • 真剣師

    真剣師

    負けて傷つく 名誉はないが勝たにゃ明日の 銭がない誰か付けたか 真剣師次の一手を 思案の駒に命 捨て身の命 捨て身の 将棋盤「賭け将棋に人生を賭けているから真剣師。いい呼び名じゃございませんか。負ければ明日がないー だから毎日毎日が真剣勝負なのでございます。」好いたほれたの 色恋沙汰はなんで出来ない 後始末いつか世間も...
  • 終列車

    終列車

    女の明日を 一枚の切符に賭ける はずでしたどうぞ叱って ねぇあなたついて行けない 弱虫をなみだで送る 赤い灯は乗るはずだった 終列車私がもう少し 強ければ捨てられました 世間までどうぞ信じて ねぇあなた嘘じゃないのよ いまだって遊びの恋が できるほど器用じゃないの 初めからひっそり生きてく この町で夢から覚める その日...
  • 母ざんげ

    母ざんげ

    母と言う身を 忘れなければ果たせぬものやら ご奉公お家騒動 若君様を守るためとは 言いながらわが子にさせる わが子にさせる 毒味役毒は食うなと 叱るが常を毒と見えたら 食えと言う倅 千松 許しておくれ生みの母でも 母を 鬼と呼ばずに何と呼ぶ 何と呼ぶ母「これ、千松。若君様へお見舞いの御お菓子、我先に手を出すとは、何たる...
  • 寒牡丹

    寒牡丹

    頬に当たった 別れの雪が解けて涙の 露になる哀しいけれど 身を引くことが私に出来る 思いやり咲いてみたって 春知らず実らぬ恋です 寒牡丹夢の夢でも 幸せでした妻の真似事 出来ただけいついつまでも 甘えていてはあなたをきっと 駄目にする貸してあげたい この傘を紅さえ凍える 寒牡丹二度と逢うまい 逢いたいけれどつらさ堪えて...
  • 海峡氷雨

    海峡氷雨

    明日の船でも いいはずなのになんでこの手を 振りほどく涙を見るのが 嫌なのならば笑顔つくって 送るから…あなた最後の わがまま聞いて後を追う背に 海峡氷雨二人暮らしに 見付けた部屋は一人住むには 広すぎるあなたが残した 小さな合鍵が やせた女の 掌に重い…見たくなかった まぼろしなんて夢を濡らして 海峡氷雨春は遅れる ...
  • 一人静

    一人静

    愛に泣くのを 知りながら女は恋を するのでしょうか別れも告げずに 置手紙旅路の駅に 儚く咲いてる一人静の 花に訊くこころ変わりを 責めたって貴方の愛は 戻りはしない涙がにじんだ 途中下車灯火も暗い 酒場の隅でひとり酔えない 酒に酔う胸の未練の 消える日が私の旅の 終わりでしょうか北行く始発を 駅で待つ女のつらさ 分って...
  • 海鳴り情話

    海鳴り情話

    蒼い糸引く 水平線があなたの船を 消して行く未練ごころを 海猫は知って啼くのか 日御碕追って来たけど 出雲路は行く手遮る 日本海何度 手櫛で まとめてみても風吹くたびに ほつれ髪答え返らぬ 海鳴りに愚痴を聴かせる なみだ岬忘れたいのに 女って憎い人ほど 後を引く夢を抱かずに 生きてくことは死ぬより辛い 私には待っていま...
  • 那智の火祭り

    那智の火祭り

    鎌倉積みの 石段を大松明が 駆け上がり那智の火祭りが 始まるのです愛の指輪の 宝石も恋が終われば 硝子玉火の粉浴びれば 燃え尽きますかああ 貴方から…旅発つために 熊野まで泣いてるような 滝の音夢なき旅の 女には那智の火祭りは寂しいのです髪の乱れも そのままに借りて眠った 腕まくら燃えたあの夜が 浮かんで来ますああ 松...
  • ひとり傘

    ひとり傘

    女物でも よかったならばあなた お持ちになりますか濡れるにゃ冷たい 春時雨…送りたいけど 人目を忍ぶ通り雨 通り雨恋はいつでも ひとり傘離したくない 心がさせる結ぶ帯さえ 遅れ勝ち女の甘えを 責めないで…次の逢瀬を 待つ身はつらいなみだ雨 なみだ雨帰るあなたの ひとり傘余り傘でも 日を置かないであなた 返してくださいね...
  • 雨恋花

    雨恋花

    いまは他人の あの人なのに聴けば乱れる 風便り雨恋花の 紫陽花の雨は雨は雨は女の 涙でしょうか…拾い集めた 良いことだけを想い出してる 私です後も向かない 冷たい背中を追ったあの日の 蛇の目傘雨恋花の 紫陽花の恋は恋は恋は移り気 遊びでしょうか…憎い仕打ちも 月日が経てば許すつもりの 私です募る逢いたさ 浴衣の袖を濡ら...
  • 放浪歌(ながれうた)

    放浪歌(ながれうた)

    さいはて 港酒場海に漁火 泣いている胸の残り火 映るのか恋のきずあと 癒せずに弱虫 女ひとり憎めないから なおつらい想いわかるか 海鳥が翼濡らして 放浪歌さいはて 港しぐれあなた忘れの 旅まくら傘を差しても 心まで雨のしずくが 凍りつく酔いどれ 女ひとり明日の行方が 捜せない浜の酒場の 止まり木ですすり泣くよに 放浪歌...
  • 人生囃子

    人生囃子

    先に咲いたら 散るのも早い遅れ咲きには 明日がある出世双六 素人芝居幕を引くまで 分からない泣くも阿呆なら 笑うも阿呆どうせ阿呆なら賑やかに 人生囃子惚れたはれたと 騒いでみてもしょせん色恋 はやり風邪熱が冷めても 惚(ほ)の字であれば恋は本物 脈がある泣くも阿呆なら 笑うも阿呆どうせ阿呆なら賑やかに 人生囃子こんなご...
  • 九官鳥

    九官鳥

    あなたの愛から旅発つ午後は朝から無口な 九官鳥(きゅうかんちょう)おしゃべり上手な鳥だけど別れの気配も 分るのねさよなら言わずに出て行くわあなたも黙って見送って何にも罪などない鳥を泣かせるなんて罪つくり二人の愛の九官鳥いつでも二人の口真似しては笑いを誘った 九官鳥これからあなたと何方かのしあわせ見つめて暮すのねやさしく...
  • おんな酒

    おんな酒

    貴方ひとりが 男じゃないと口じゃ言えても 心ではしのび泣くどこの誰より 惚れてるくせに素直になれない 意地っぱり馬鹿な女の 強がりを酔って聞かせる おんな酒 分って ねえあんた無茶はよせよと 優しく叱り干したグラスに 蓋をする掌が欲しい酒じゃ消せない 心のすき間知っていながら また空ける馬鹿な女と 言わないで眠れないの...
  • 母恋巡礼

    母恋巡礼

    あれもこれもと 想っていても夢で終った 親孝行離れ離れにめ 暮らしただけに胸に残るは 悔いばかり母恋巡礼札所めぐりの 花供養やると決めたら 死ぬ気でおやりやって駄目なら 戻りゃいい故郷を出る朝 しばれる駅の別れ言葉の あたたかさ母恋巡礼添える想い出 花供養いまは小言も 聴けないけれどいつも心の いのち杖辛い時には 昔に...