• 木下龍太郎

    「337」
  • 海峡蛍

    海峡蛍

    送る人ない 女の旅に従(つ)いて来たのか 港から明かり点して船の後追う 海峡蛍消しても消えない この胸の未練火見るよで 辛くなる愛を信じて 尽くして来たがいつか背いた あの人は同じ運命の恋に泣くのか 海峡蛍積み木と同じで もろいもの壊れて気が付く しあわせは海で迷子に ならないように早くお帰り 岬まで名残り惜しそに闇に...
  • 越後海道

    越後海道

    こころ残して 身を引く恋はいつの日消える なみだ跡越後海道…寄せる荒波 日本海袖に舞い散る 飛沫(しぶき)を逃げてひとり荒磯(ありそ)を 急ぎ足もしも幸せ 望んだならば誰かがきっと 陰で泣く女なりゃこそ…判る女の 哀しさが風に切れ切れ 門付け三昧の音が罪ある 胸を打つ違う生き方 見付けるための女の旅は いつ終る越後海道...
  • かすみ草

    かすみ草

    この花が好きなのは 日差しの中で往く春を惜しむよに 咲く花だから光るなみだ 風の匂いあの日別れたふたり壊れてく幸福(しあわせ)の 形のようにかすみ草 かすみ草 白く散ってた揺(ゆ)り椅子に揺れながら 手紙を読めばいつかしらあの人の 声が聴こえる忘れようと 努(つと)めながら想い出しているのね約束はひとときの 気休めごと...
  • 望郷よされ

    望郷よされ

    海に出ようと故郷の川へ鮭は戻って 行くと言う木枯らしまでが じょんから三味(じゃみ)になぜか聴こえる 都会(まち)ぐらしよされ よされ 望郷よされ母の 顔見に 帰ろか明日(あす)はー。止める母の手振り切りながら恋に走って 幾年(いくとせ)か夜汽車を送るなみだの顔が瞼閉じれば また浮かぶよされ よされ 望郷よされ遅いけれ...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と逢う人の 逢う人の運命(さだめ)は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺につんだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱(いだ)き合う 抱き合う...
  • 雪雀

    雪雀

    ひとりぼっちじゃ 無理だけど連れがあるから 生きられるすずめ すずめ 二人はすずめこの世の冬の 雪雀互いの愛の ぬくもりで凍えた羽を あたためる惚れた貴方の 夢ならば親も捨てます ふるさともすずめ すずめ 二人はすずめ泣いたら負ける 雪雀心に点もす 命火が迷った時の 道しるべ肌を刺すよな 北風も少しゆるんで 春間近すず...
  • 男 追分三五郎

    男 追分三五郎

    同じ親持つ 血よりも重い兄弟分の 盃は馬鹿な奴だが 気のいい石松(いし)の仇は 仇はこの身に 代えてでも喧嘩支度の男 追分三五郎「おしろ、夫婦の約束はなかったことにしてくれ!石松の仇、都鳥一家との 今度の出入り、生きちゃあ帰れめえ。黙ってその手 離してくれ、なあ、おしろ!」元は備前の 武士(さむらい)くずれ裃脱いで 男...
  • おんな舟

    掴めなかった やすらぎなんてひとりでいくら 捜しても流れ流され 浮世の岸でやっと見つけた 夢あかりあなたと一緒に しあわせの海に着きたい おんな舟不幸つづきの その明け暮れに宿命(さだめ)の星を 逆(さか)うらみ長い苦労も 出逢いのための避けて通れぬ まわり道心を預けて これからはあなた任せの おんな舟春に先がけ 咲く...
  • 男の流転

    男の流転

    針で刺すよな 世間の目より痛い他国の 雪つぶて他人(ひと)のうわさを 逃れる旅はすがるお前を みちづれに流れ流れて 小樽 函館 男の流転肩の寒さに 眠れぬ宿は夢も凍える 軒つららやせてやつれた お前の背中(せな)に煎餅布団を 掛け直す流れ流れて 北見 札幌 男の流転明日(あす)が見えない 地吹雪だけど止めば来る春 北の...
  • 袖摺坂

    袖摺坂

    言葉はなくても 目と目を見ればいまでは心の 奥まで分かる袖摺坂は 絆坂知らぬ同士が 浮世の露地でめぐり逢っての 縁結び夫婦は他人の 寄り合い所帯月日を重ねて 垣根が取れる袖摺坂は 心坂意地を張り合い 喧嘩をしてもすぐに笑顔の 差し向い貴方が男で 生まれるならば私は女で また生まれたい袖摺坂は 緑坂ここが二人の 始まりな...
  • さすらい本線

    さすらい本線

    遠く消えてく 町の灯(ひ)の一つは君の 窓あかりやすらぎ暮らしと 聴いたからようやく堪(こら)える 途中下車恋の未練火(みれんび) 消せないままに男はひとり さすらい本線君のあの日の 置手紙さよならだけの 走り書き心の迷いも そのままに涙でにじんだ 乱れ文字窓に広がる サロベツ原野男はひとり さすらい本線沖に潮鳴り 聴...
  • 山彦峠

    山彦峠

    故郷(こきょう)の風に 吹かれたくって夕陽の中を 遠まわり 遠まわり木霊(こだま)もうれしい山彦峠は オーイ 九十九折(つづらお)り段々畑で 迎える母の影が気になる やつれ肩手おんぶされて この坂越えた幼い頃の 村まつり 村まつり思い出映(うつ)すか山彦峠の オーイ 鏡月(かがみづき)手料理自慢で 精出す母の味に今夜は...
  • 天橋立

    天橋立

    捜せなかった 別れた後は私の愛の 帰る場所傍のしあわせ 気が付かないで無駄足ばかり 女って天橋立 あなたの胸に架けてください 戻り橋どこへ行っても 離れなかった未練はまるで 影法師二度と逢えぬと 思ったけれどあの日のままの こころ糸天橋立 横一文字に海を縫うよな 絆橋もしも時間が 戻るのならば出直したいの 始めからあな...
  • 更衣(ころもがえ)

    更衣(ころもがえ)

    終わった愛の 破れ着はそのまま着てては 辛いだけ寒すぎるのよ…ぬくもり消えた 恋衣季節にゃ少し 早いけど女ごころの 更衣二人の胸に 出来ていた見えないほころび 愛の溝もう無理なのね…繕うことも 縫うこともこの手に余る ほつれなら思い切っての 更衣もう着ることも ないけれど想い出箪笥に 仕舞い込む捨てられないの…着馴れて...
  • 城ヶ島雨情

    城ヶ島雨情

    好きで別れた 人ゆえにいまも消せない 面影を利久(りきゅう)ねずみの雨は女の なみだ雨愛に引かれて 想い出をひとり訪ねる 城ヶ島たとえ再び 逢えたとて過ぎた月日は 戻らない蛇の目持つ手の指輪重たい くすり指女ごころの 切なさを知るや相模の 浜千鳥傘をさしても 心まで濡らす三崎の 磯しぐれ辛いけれども雨で消したい 未練火...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の運命は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺に摘んだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱き合う 抱き合うその日がいつか 来...
  • 五能線

    五能線

    どこへ行ったら あなたから旅立つことが 出来るでしょうか残りの夢を 詰め込んだ鞄を膝に 列車旅女 みちのく 五能線窓いっぱいに 日本海愛が終わった あの部屋にあなたはいまも ひとりでしょうか私の匂い するものはどこかへ捨てて 邪魔ならば過去を 置き去り 五能線出直すための 衣替えひとり歩きに 馴れるには時間が幾ら かか...
  • 五十雀

    五十雀

    甘えさせたり 甘えてみたり誉(ほ)めてあげたり 叱ったり無駄に人生 歩いて来ない男ごころは お見通し鳥なら山雀(やまがら) 四十雀(しじゅうから)女はやっぱり 五十雀(ごじゅうから)恋もしました 一度や二度は夢も見ました 人並に酸(す)いも甘いも 知ってるだけにかゆい所に 手が届く好みはそれぞれ 違っても女はやっぱり ...
  • 筑後川

    筑後川

    明日(あす)の出口が 見えない夜は北向き窓の 空を見る胸に浮かぶは遠き故郷(ふるさと) 筑後川聴こえぬはずの 川音が負けちゃ駄目だと負けちゃ駄目だと 耳を打ついいの忘れて しかたがないのあなたの夢の 邪魔ならば君が洗った別れなみだの 筑後川いまごろどこで 暮らすやらうわさ聴きたいうわさ聴きたい こんな日はたとえ嵐が 吹...
  • 秋桜の風に吹かれて

    秋桜の風に吹かれて

    愛が終わった この町で生きて行くのは つらいから秋桜の 風に吹かれてひとりの旅に 出るのです捨てるつもりの 想い出を詰めた鞄を 道連れに…どんな花より 私にはこころ和ます 花だから秋桜の 道を見付けてあてなく歩く つもりですみれん涙が こぼれたら露のしずくの せいにして…恋の破片で 傷付いた胸の痛みが 消えるまで秋桜の...