• 木下龍太郎

    「337」
  • 母ざんげ

    母ざんげ

    母と言う身を 忘れなければ果たせぬものやら ご奉公お家騒動 若君様を守るためとは 言いながらわが子にさせる 毒味役毒は食うなと 叱るが常を毒と見えたら 食えと言う倅 千松 許しておくれ生みの母でも この母を鬼と呼ばずに 何と呼ぶ 何と呼ぶ「これ、千松。若君様へお見舞いの御お菓子、我先に手を出すとは、何たる不調法じゃ」「...
  • 鞍馬街道

    鞍馬街道

    一歩 二人で 踏み出せば二度と一人じゃ 戻れない親に背いた みちゆきはひたすら先を 急ぐだけ京の都(まち)から 若狭まで鞍馬街道 忍び立ち明日を占い おみくじを水に浮かべる 貴船川(きぶねがわ)凶と出たなら 二人して運命(さだめ)を吉に くつがえす花背(はなせ)峠を 越えたとて鞍馬街道 まだ中半(なかば)恋を選んだ 女...
  • 指笛峠

    指笛峠

    後追いかけて ここまで来たがほんのひと足 行き違いお前乗せてく 夜汽車の汽笛(ふえ)が月にひと泣き 遠去かる指笛峠でヨ~つらい別れの 笛を吹く忘れはしない 祭りの夜の末は夫婦の 約束を親の言葉に いつしか負けて心ならずも 嫁ぐのか指笛峠でヨ~答え欲しさに 月に訊く嫁いだ先の 苦労の風はせめてそよりと 弱く吹け便り書けな...
  • 夫婦竜

    夫婦竜

    惚れた男を 世に出すためにゃ鬼になります 蛇にもなる女だてらと 笑わば笑え嵐うず巻く 洞海湾(どうかいわん)に二人で漕ぎ出す アアン アアン アアアアン 伝馬船(てんません)夢に命を賭けるのが 男ちゅうもんなら惚れた男に一生を賭けるのが 女ちゅうもんじゃなかですか。こン人と一緒に死ねるなら 女にとってこんな幸せはなかと...
  • 高原旅愁

    高原旅愁

    失くした恋の なつかしくひとり訪ねた 高原を想いあふれて 中空(なかぞら)に君の名呼べど 答えなくああ 白樺にさやさやさやと 風が吹くくちづけ一つ 想い出に遠く別れて 幾年(いくとせ)か掴(つか)み切れずに この手からこぼれた夢の かけらやらああ 竜胆(りんどう)にはらはらはらと 露が散る立ち去り難く たたずめば迫るた...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の運命(さだめ)は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺につんだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱(いだ)き合う 抱き合う...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心のおくにいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の別れはつねに あるものをただ泣きぬれて 浜辺につんだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱き合う 抱き合うその日がいつか...
  • おんな雪

    おんな雪

    遅れて欲しい いで湯のバスはどうして早く 来るのでしょうかあなた信じて いいですか出掛けの宿の 約束を傘を差しても 心に積もるわかれ湯村の おんな雪 おんな雪舞台で泣いた 芝居のように明日なき恋の 二人でしょうかあなた叱って くれたわねこの目に嘘が あるかって湯気を浮かべて 流れる川も名前うれしい 春木川 春木川別れを...
  • 舞化粧

    舞化粧

    女ごころの 煩悩(ぼんのう)は何で拭いたら 取れますか灰になるまで 燃えるのが憎い女の 性(さが)ですかいまは他人の あの人が忘れられずに 薬王坂(やっこうざか)転びながらも ひとり越え冬の鞍馬の雪に舞う ああ 未練舞い百と八つの 鐘の音は迷い断ち切る 音ですか消えぬ時には 私だけ鐘を撞(つ)かせて くれますか浮いた浮...
  • 城ヶ島雨情

    城ヶ島雨情

    好きで別れた 人ゆえにいまも消せない 面影を利久(りきゅう)ねずみの雨は女の なみだ雨愛に引かれて 想い出をひとり訪ねる 城ヶ島たとえ再び 逢えたとて過ぎた月日は 戻らない蛇の目持つ手の指輪おもたい くすり指女ごころの 切なさを知るや相模の 浜千鳥傘をさしても 心まで濡らす三崎の 磯しぐれ辛いけれども雨で消したい 未練...
  • 恋の続きをもういちど

    恋の続きをもういちど

    側のしあわせ 何故か見えなくて無駄な道草 していたみたいやっと気づいた 失くした後で捨てちゃいけない 大事なものにもう 離れない もう 離さないふたたび出逢った アカシアの北の街から 今夜から恋の続きを もういちど思い切る気で 恋もしたけれど愛せなかった 貴方のように男ごころを 支えるものは他になかった 貴女をおいても...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の運命(さだめ)は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺に摘んだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱(いだ)き合う 抱き合う...
  • 白川郷

    白川郷

    愛していても 解(ほつ)れて切れた二人を結ぶ 絆糸合掌造りの 白川郷へあなた忘れの おんな旅想い出捨てて 来たはずなのになんで未練が なんで未練が 後を引く気付かぬままに して来たみたい大事な愛の 無駄遣いぬくもり恋しい 白川郷でひとり今夜は しのび泣き別れた後で 初めて分かる男ごころの 男ごころの やさしさを見付ける...
  • 忠臣蔵・片岡源五右衛門

    忠臣蔵・片岡源五右衛門

    春に背いて 散り急ぐ花は赤穂の 若桜殿の無念を 知りながら尽くす手立ても ないままに送るつらさに 送るつらさに男・源五の 口惜し泣き「片岡源五右衛門 お側にお仕えしながら何も出来ずに腹を召される殿を送らねばならぬとは…ああ 情けなや。殿! 最後に言って下され 源五 余は無念じゃったとそこから一言 殿!」抜いちゃならない...
  • 忠臣蔵・堀部安兵衛

    忠臣蔵・堀部安兵衛

    「ウィ…ああ 酔うた 酔うた。 これは叔父上からのお手紙か。何々 本十一日巳之(みの)下刻(げこく) 高田の馬場にて 村上庄左衛門と果し合い 何とぞご助勢(じょせい)を…ええっ。婆さん 今、何時(なんどき)だぁ!」剣で遅れは 取らないが酒で不覚を 取ろうとは叔父の助太刀 安兵衛が呑むは 呑むは酔覚(よいざ)め 柄杓水(...
  • 人生勝負

    人生勝負

    無駄に見えても 道草は次の一歩の 足慣らし遅れようとも 頑張れば他人(ひと)に追い付く 追い越せるのるかそるかの 大一番は引き分けなしの 人生勝負掛けた情けは また戻る決してならない 掛け捨てに持ちつ持たれつ 世の中は一期一会(いちごいちえ)の 繰り返しのるかそるかの 大一番は一人じゃ勝てぬ 人生勝負今日の苦労は 後で...
  • 潮鳴り海峡

    潮鳴り海峡

    すがりつきたい あなたの船をなんで冷たく 引き離す北の早瀬の 帰り波波に罪など ないものを女 女なりゃこそ 憎くなる 潮鳴り海峡髪の乱れを 梳(と)かした後も眠れなかった 夜明けまで窓に漁火 海蛍枕がわりの あの腕にこころ こころ預けた 港宿 想い出ひと夜逃げて行くよに あなたの船は潮に流され もう遠い北の早瀬の 帰り...
  • 宿化粧

    宿化粧

    外したくない 手枕をそっと外した 夜明け前もしも貴方を 起こしたら未練ごころに また負ける月の明かりで別れ紅さす 宿化粧添えぬ二人と 知りながら無理を言いたい 女なら酔って甘えた 明け方は愛の名残りの ほつれ髪梳(と)かす小さな櫛が重たい 宿化粧結ぶ先から 衣擦(きぬず)れの音が泣き出す おんな帯避けて通れぬ 別れなら...
  • 湯来しぐれ

    湯来しぐれ

    元の他人に 戻った人を思い切れない 意気地なししだれ桜が 未練のように岸にただよう 水内川(みのちがわ)宿の名入りの 番傘はしずく冷たい 湯来しぐれ部屋に着いても 寂しいだけでわざと宿まで 遠まわり愛しながらも 別れた身には名前哀しい 出合いの滝女ごころが 判るよに貰い泣きする 湯来しぐれ寝酒がわりに 頼んでみたが口を...
  • 袖摺坂

    袖摺坂

    言葉はなくても 目と目を見ればいまでは心の 奥まで分かる袖摺坂は 絆坂知らぬ同士が 浮世の露地でめぐり逢っての 縁結び夫婦は他人の 寄り合い所帯月日を重ねて 垣根が取れる袖摺坂は 心坂意地を張り合い 喧嘩をしてもすぐに笑顔の 差し向い貴方が男で 生まれるならば私は女で また生まれたい袖摺坂は 縁坂ここが二人の 始まりな...