• 木下龍太郎

    「337」
  • 風待港

    風待港

    船は千来る万来る中で貴方の船をこころ待ちもしも港に戻ったならば嵐よ止むなしばらくは時化の間はとも網解かぬ女は男の風待港冷えていたなら温めてあげる添い寝の肌で夜明けまで酒は人肌呑ませてあげる命の水を好きなだけ尽くすことなら誰にも負けぬ私は貴方の風待港離れたくない心を知らずいつしか凪の空模様次はいつかと貴方に問えば天気に聞...
  • ふるさと帰行

    ふるさと帰行

    ひとりぼっちの 寂しさもいまはようやく 馴れました故郷出るとき 抱いて来た夢にむかって また一歩明日の行方が 見えぬ日は希望が心の 道しるべ春は桜 夏は蛍秋は芒 冬は小雪帰りたいけど まだ帰れない遠い列車の 笛に泣<他人の情けの あたたかさひとり暮しで 知りました弱音吐いたら 鞭になり足をとられりゃ 杖になる目には見え...
  • 恋問川(こいといがわ)

    恋問川(こいといがわ)

    ぬくもり消えた 女の胸は重ね着しても まだ寒い出直すための 旅路のはずがあなた…あなたの影に つまずく町に愛は帰らぬ 恋問川気付いたときは 手遅れでしたいつしか切れた 絆糸私がひとり 繋いでみたがあなた…あなたと二度と 結べなかった夢が流れる 恋問川心にひとつ 区切りをつけて終わりにしたい みれん旅想い出水に 流したは...
  • 国東半島

    国東半島

    裾を乱して 急いでみても未練がまたも 袖を引くおんな豊後路 両子寺(ふたごじ)へ地図を頼りに 国東半島早くあなたを 忘れるようにすがる想いで 手を合わす二人旅する この日のために見立てたつもり 恋袖名前やさしい 姫島(ひめしま)よ背伸びして見る 国東半島側にみちづれ ない旅ならばつらさ身に沁む 周防灘(すおうなだ)ひと...
  • 豊後巡礼

    豊後巡礼

    襟におくれ毛 湯上りの肌にほんのり 薄化粧豊後巡礼 いで湯町別府(べっぷ) 湯布院(ゆふいん) 九重(ここのえ)の湯おんな磨きの 旅ならば人が見返る 宿浴衣(やどゆかた)一夜(ひとよ)泊りが また一夜(ひとよ)旅の手引きの 味めぐり豊後水道 港町佐伯(さえき) 臼杵(うすき)に 佐賀関(さがのせき)旬の関あじ 関さばに...
  • 浮世草

    浮世草

    過ぎた恋だと 笑っても口と心は 裏表憎い人ほど 後を引く胸の 胸の未練火 消せぬまま川を流れる 浮世草愛を信じて 背かれた私みたいな 弱虫はなみだ洗った 水なのか寄せる 寄せるさざ波 袖濡らすしぶき冷たい 浮世草呑めぬお酒に すがっても沁みるばかりの 傷あとはいまに月日が 消すと言う元の 元の笑顔が 戻るまで明日へ流れ...
  • 柵

    勝手気ままに 育った麦は雪の重さに 耐え切れぬ足で踏むのも 根っこを張って強くなれとの 親ごころ辛い世間の 柵は男を鍛える 愛の鞭きれい事だけ 並べていたら惚れた女も 背を向ける愚痴を呑み込み 流した汗に他人(ひと)は黙って 従(つ)いて来る切れぬ浮世の 柵は男を育てる 向かい風楽に通れる 世の中ならば辞書に苦労の 文...
  • 人生山河

    人生山河

    思い通りに 通れたら苦労する奴 誰もない今日の一歩の つまずきは明日の三歩で 取り戻すたとえ他人(ひと)より 遅れても焦ることない 焦ることない 人生山河他人(ひと)の情けが なかったら生きて行けない 一日もそれをどこかで 忘れたら渡る世間が 通せんぼ敵は心の 中にあるいつか気付いた いつか気付いた 人生山河いくら辛く...
  • 利尻水道

    利尻水道

    便りがいつしか 絶えたのは恋を始めた せいですか必ず帰るの 約束はその場限りの 嘘ですか支えなくして あなたどうして生きれば いいのでしょうか吹雪いて今日も 船はない利尻水道 日本海離れて暮せば 駄目なほど愛ははかない ものですか一緒に生きてく 幸せは私ひとりの 夢ですか憎い仕打ちを あなた恨めずいるのは 未練でしょう...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶(おぼ)えておいてほしいからしあわせ祈る 言葉にそえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の定めは常にあるものをただ泣きぬれて 浜辺につんだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱(いだ)き合う 抱き合うそ...
  • 水仙岬

    水仙岬

    振り向くたびに 爪立ちすれば足袋の鞐が 痛くなるあなたを 見送る女 越前 水仙岬春呼ぶ花が 咲き競うのに私の心は 春知らず――女のいのち 三日に込(こ)めて燃えて乱れた いで湯宿別れに選んだ女 越前 水仙岬命を賭けた この恋だけに大事にしたい 想い出は――手櫛(てぐし)でやっと まとめた髪を風がひと吹き また解(ほど)...
  • 男の手紙

    男の手紙

    お前が居たから 今日がある何度かつまずき かけたけど隣で支えて くれたからどうにか来られた ここまでは口じゃ言えない 男の手紙陰でこっそり 読んでくれお前はいつでも 愛がある心が離れた 日もあるが信じて待ってて くれたから出口を見つけた 迷い道切手貼らずに 手渡す手紙詫びの気持も 読んでくれお前が居るから 明日(あす)...
  • 暦川

    暦川

    初恋は 何故かほろ苦く実らない 愛は美しい面影が 二重(ふたえ)映しにこの胸に いまも消えないああ 月日浮かべて想い出の中へ流れる 暦川仲良しの 幼なじみより喧嘩した 顔がなつかしい耳馴れた 故里(くに)のなまりでにごり酒 友と呑みたいああ 月日浮かべて想い出の中へ流れる 暦川あの山に 鶸(ひわ)は群れて啼きあの川に ...
  • 夫婦桜

    夫婦桜

    晴れの日雨の日 いろいろあったいつしか人生 折り返し解(ほど)けかかった 絆の糸を心を合わせて また結ぶ二人で植えた 夫婦桜よ強く根を張れ 枝を張れ子供はかすがい 巣立った後はどこかで薄れた 結び付きやっと下ろした 肩の荷だけど軽さが寂しい 親ごころ二人の支え 夫婦桜よ雪に折れるな 嵐にも袖摺(そです)り合っての 道連...
  • 細い身体の折れるまで

    細い身体の折れるまで

    さむい さむい さむい夜冷(さ)めた男の こころなら女の泪(なみだ)じゃ つなげないせめて最後の 想(おも)い出に抱いて 抱いて細い身体(からだ)が 折れるまでくらい くらい くらい空どうせこの世は 手さぐりだあしたがあろうと なかろうと今夜の別れに もう一度抱いて 抱いて細い身体(からだ)が 折れるまでにがい にがい...
  • 銀座でツイスト

    銀座でツイスト

    踊ろよ ツイスト歌およ ツイスト今宵 銀座は 買い切りなんだ踊ろよ ツイスト歌およ ツイスト今宵 銀座は 買い切りなんだ大人ぶるやつあみんなどいてよ若い仲間の リズムだみんなで踊ろうWEST GINZAEAST GINZAなにがなんでも踊ろよ ツイスト踊ろよ ツイスト歌およ ツイスト今宵 銀座は 買い切りなんだ踊ろよ ...
  • 裸足のブルース

    裸足のブルース

    靴を投げ出し 裸足(はだし)でひとり歩いてく赤いクルマも ドレスもなんにもいらないの風が吹いたら 飛ばされて雨が降ったら 濡れるだけヘッドライトの アオヤマ指を鳴らして歩くガムをかみかみ 裸足でひとり歩いてく愛だ恋だと 泣くのは子供のすることよ傷が痛けりゃ 痛むままわざと夜風に さらすだけプラザ横目に アカサカ風にゆら...
  • 三条河原町

    三条河原町

    都大路に ともる灯は泣いて朧な こぼれ紅弱いおんなが 強がりでひとり生きてくあゝ 三条河原町恋の名残りは 鴨川の水に浮かべる 紙灯籠どうせ流れて 行ったとてやがてくずれるあゝ 三条河原町忘れましたと 云いながらなんで八坂の 宵参りもしやもしやに ひかされるおんな哀しやあゝ 三条河原町...
  • 関東仁義

    関東仁義

    「ご列席のご一統さん 失礼さんにござんす。私生国と発します 関東にござんす。関東は江戸 改めまして東京は浅草花川戸にござんす。男度胸の二の腕かけて義理人情の紅い花彫って入った稼業にござんす。渡世縁持ちまして天神一家にござんす。姓は左近寺 名は龍也通称抜き打ちの龍と発します。昨今かけ出しの 若輩者にござんす。今日嚮(きょ...
  • 花のよろこび

    花のよろこび

    花はひとりで 散るものを風のしわざと 人は言う恋の終わりに 泣くよりも燃えてひとすじ 散ってゆくああ 花のよろこび だれも知らない花が見たのは 春の日の夢かそれとも かげろうか短いけれど しあわせな想(おも)い出だけを 抱いて散るああ 花のよろこび だれも知らない花の涙を 知らないで露のなごりと 人は言うまして汚れず ...