• 木下龍太郎

    「337」
  • おれの北緯四十度

    おれの北緯四十度

    朝は燃える 太陽夜は揺れる 漁火 北の海大漁旗を なびかせ帰る無事を祈り 見守る母のような 灯台かすむ波間の村 潮の香りの村おれの北緯四十度朱(あか)く咲くは はまゆり白い花は えんじゅか 北の国握った土の かすかな温み友と力 合わせて汗を流す 一日風もみどりの村 星があふれる村おれの北緯四十度故郷(いなか)離れ 想う...
  • 浅野内匠頭

    浅野内匠頭

    叶うものなら もうひと太刀を斬って捨てたや 吉良殿を勅使饗応の 大役捨てて松の廊下を 血で染める積る恨みの 意趣返(いしゅがえ)し「重ねて申す 梶川殿 乱心ではござらぬ。吉良殿への積もり重なる遺恨でござる。浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)も五万石の城主打ち損じたからには神妙にいたす。その手放して 衣服の乱れを直す暇(い...
  • 大石内蔵助

    大石内蔵助

    松の廊下の 刃傷(にんじょう)を国へ知らせる 早飛脚(はやびきゃく)殿に殉(じゅん)じて 切腹か城を渡して 浪(ろう)の身か揺れる家中(かちゅう)を 前にしてひとり思案の 内蔵助「殿に忠節を誓い 藩の行末を愁(うれ)う各々(おのおの)方のご心底(しんてい)しかと見定(みさだ)め申した。二心(ふたごころ)なき証拠の血判(...
  • 故郷の山が見える

    故郷の山が見える

    いちど東京へ 行くと言いながらいつも口だけで ひとり野良仕事老けたおふくろの やせたあの肩をさすってあげたい峠 越えれば 俺のふるさと山が見えてくるふるさとの山に向いて 言うことなしふるさとの山は ありがたきかな(啄木詩集より)けんかしたけれど 何故か気があってどこへ行くんだと 泣いてくれたやつ月の縁側で 馬鹿を言いな...
  • 桟橋時雨

    桟橋時雨

    辛くなるから 見送らないでなんで言ったか 強がりを出船濡らして… 桟橋時雨宿のあなたに 別れを告げる女ごころの なみだ雨後を引くから 最後の夜は許さなかった 港宿窓にしくしく… 桟橋時雨こんな小さな 海峡だけど越えりゃ他人と 名が変わるどうぞ忘れて 私のことは早く見つけて いい女(ひと)を止んでまた降る… 桟橋時雨船に...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて 欲しいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の運命(さだめ)は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺に摘んだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱(いだ)き合う 抱き合う...
  • ねね太閤記

    ねね太閤記

    城も取れます 男なら器量ひとつで 戦国は陰の苦労が 織田様のお目に止まって 草履(ぞうり)取りねねは ねねは ねねは人生賭けております お前さま「えゝっ 淀殿に男のお子が生まれたと…豊臣の家にとっては目出度いことなれど母になれない女のねねにはそれは それは死ぬよりもつらいことにございます。秀吉殿。」出世峠を 登りつめい...
  • 濃姫

    濃姫

    敵となるなら お家のために刺してみせます 夫さえ嫁ぐこととは 死に行くことと決めて美濃から 尾張まで帰蝶に出来る女のこれが 戦(いくさ)です「父上様 うわさ通りのうつけ者ならば、信長殿を討てと下されたこの懐剣(かたな)あるいは父上に向けるやもしれませぬ。この帰蝶は 蝮(まむし)の道三(どうさん)の娘にございます。」討(...
  • 細川ガラシャ

    細川ガラシャ

    散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれきっと今度の 出陣が二度と逢えない 旅になる忠興(ただおき)殿も 分るやら鎧(よろい)の袖に ひとしずく武士の妻でも お玉も女追って行きたい 大手門「お玉は誓って石田三成殿の人質にはなりませぬ。徳川家康殿のために心おきなくお仂きくだされ 忠興殿。」三日天下と 人が言う父...
  • 旅鳥

    旅鳥

    羽を痛めて 飛べない連れを守って寄り添う 旅鳥よ群れははるばる 南をめざし先に行ったよ あの空をちょいと お前さん 私が倒れたら抱いて寝かせて くれるかえ元の 身体に 戻るまでお酒を断って くれるかえ旅鳥みたいに エー お前さん形(なり)はあんなに 小さいけれど情けじゃ負けない 旅鳥よ恥かしいけど 人間様も教えられるね...
  • 水

    元は小雨の ひとしずく水が集まり 川となるどこか似ている 青春も出逢いふれあい 何度か重ね女は命の 恋をする色を持たない 水だからどんな色にも 染まるもの愛を信じて その人のいつか好みに 染められながら女は可愛い 妻になる川で生まれた 鮎の子が海を目指して 旅に出るどこか似ている 人生も次の命を 育てるために女はやさし...
  • こぶしの花

    こぶしの花

    思い通りに ならない時はいいのお酒に 呑まれても男の愚痴の 聞き役ならば女の私が 引き受ける春が来ますよ もうすぐ あなた蕾(つぼみ)ふくらむ 辛夷(こぶし)の花も母が仕立てた 大島つむぎ袖を通せば 想い出す男を花に しないもするも女の甲斐性と 聞かされた夢の後押し させてね あなた風にうなずく 辛夷の花も肩に余った ...
  • 夫婦連獅子

    夫婦連獅子

    同じ舞台を 踏めるのならば耐えてみせます 辛くても女房なりゃこそ 厳しく仕込む遊びじゃ出来ぬ 芸事は交わす目と目で 目と目で 心が読めるおまえ あなた夫婦連獅子 ふたり獅子想い寄せても 叶わぬ愛に捨てる気でした 舞扇惚れたお前と 添えないならば譲る気でいた 家元は高い垣根を 垣根を 恋ゆえ越えたおまえ あなた夫婦連獅子...
  • 露草

    露草

    夜の暗さに つまずきながら迷い続けた ひとり道寒いこころに 点(とも)してくれた夢の灯火(あかり)が 道しるべ露草 露草 今日からはお前の愛の 露に咲く指に触れても 掴(つか)んでみればいつもしあわせ 影法師(かげぼうし)春の遅さを 恨みもしたが無駄じゃなかった まわり道露草 露草 今日からはお前の愛の 露に咲くひとり...
  • 酒田港

    酒田港

    白帆が頼り 北前船は止まるも行くも 風まかせお前が見送るョー 酒田港(さかたみなと)紅花(べにばな)積んで 浪花を目指す行く手は遠い 西廻り水垢離(みずごり)取って お前が縫った何より強い 守り札離れていようとョー 二人連れ嵐が来ても この船だけはいつでも風が 避(よ)けて吹く船足速い 北前船の土産は京の 流行口紅(は...
  • 湾岸(ベイサイド)ホテル

    湾岸(ベイサイド)ホテル

    港灯(ハーバーライト)が きれいだねこの世に数ある 出逢いの中でどれより素敵な めぐり逢い君を誰にも 渡したくない今夜は二人のための 湾岸(ベイサイド)ホテル真珠(パール)の耳飾り(ピアス)が 洒落てるね世界の皆に 恨まれようとすべての幸せ ふたり占め君のその瞳(め)に 溺れていたい今夜は二人のための 湾岸(ベイサイド...
  • 北都物語

    北都物語

    あれから何年 経つのだろうか君と別れた あの日からひとり北国 訪ねれば再び燃える 恋ごころ嫁いでいるのか しあわせかアカシアの花に 花に訊きたいどうしてさよなら したのだろうか忘れられずに いるくせにいつも若さと 言うものは明日に悔いを 残すものあの日の二人に 戻れたらアカシアの径で 径で逢いたい逢わずに行くのが いい...
  • 明日に咲け

    明日に咲け

    先に咲いたら 散るのも早い早いばかりが 勝ちじゃない遅い分だけ 陽差しが伸びた春が苦労の 先で待つ人生焦らず 明日に咲け持ちつ持たれつ この世の中は何も出来ない 一人では傘を譲れば 土砂降り雨に他人(ひと)は情けの 軒を貸す人生迷わず 明日に咲け長く厳しい 冬の夜(よ)だって遅れようとも 朝は来るいまは値打ちに 気づか...
  • 潮来雨情

    潮来雨情

    後を引くのは 判っていても想い出づくりの 二人旅これが最後の わがままならば舟に揺られて 橋めぐり…あやめ咲かせた 潮来の雨はなんで別れの 雨になるいっそ酔いたい 呑めない酒に今夜が着納め 宿浴衣窓の外では よしきりまでがつらい二人に 貰い泣き…出島 真菰の 潮来の雨は朝に未練の 雨になる無理を言っては いけない人に無...
  • 忘れな草をあなたに

    忘れな草をあなたに

    別れても 別れても 心の奥にいつまでも いつまでも憶えておいて ほしいから幸せ祈る 言葉にかえて忘れな草を あなたに あなたにいつの世も いつの世も 別れる人と会う人の 会う人の運命は常に あるものをただ泣きぬれて 浜辺につんだ忘れな草を あなたに あなたに喜びの 喜びの 涙にくれて抱き合う 抱き合うその日がいつか 来...